診療報酬改定2026とAI 体制から活用実績の評価へ
評価軸は「体制の整備」から「実際の活用」へ
2026年6月の診療報酬改定は、医療DXとAIに関わる評価の考え方がひとつの節目を迎えた改定でした
これまでの改定では、オンライン資格確認や電子処方箋のような仕組みについて「体制を整えているか」を評価する建て付けが中心でしたが、今回からは「整えた仕組みを実際に活用しているか」へと評価の軸足が移りつつあります
言い換えると、機器やシステムを導入したという事実だけでは評価されにくくなり、日々の診療の中でその仕組みがどう使われているかが問われる段階に入ったということです
私たちは同一グループの医療法人が開設するクリニックを実証の場としてAI活用の仕組みを開発し、実際の診療現場で運用していますが、「入れること」より「使われ続けること」のほうがはるかに難しいという実感があり、この方向転換は現場感覚とも一致しています
背景には、医療分野の人手不足が今後さらに進むという構造的な事情があります
体制の整備を促す段階はすでに一巡し、次の段階として、整備された仕組みが実際の業務改善やデータ利活用につながっているかを見る流れになっている、と捉えると全体像が理解しやすいはずです
「導入したのに使われない」が一番もったいない
院内を見回したとき、導入時の説明会以来ほとんど触られていないシステムやタブレットに心当たりのある院長・事務長は少なくないはずです
これまで、使われないシステムの損失は「支払った費用が無駄になる」という範囲にとどまっていました
しかし評価軸が活用実績へ移ると、使われていない状態はコストの問題では済まず、評価の場面で不利に働き得る経営課題へと性質が変わります どの項目にどう関わるかは、厚生労働省の公表資料で個別に確認する前提です
そして、もったいないのは費用だけではありません
使われないシステムがひとつ院内にあるだけで、「どうせ今度も定着しない」という空気が生まれ、次の改善へ挑戦する意欲そのものが削られていきます
私たちは、導入を見送ることよりも「導入したのに使われない」状態を放置することのほうが重い損失だと考えています、費用と時間に加えて、現場の信頼という取り戻しにくい資産まで失うからです
「導入済み」と「活用中」の間にある溝を埋めることが、これからの医療機関に求められる実務であり、ベンダーに任せきりにできない部分でもあります
定着しない導入に共通する型はクリニックのAI導入でつまずく失敗パターンでも整理しています
使われる仕組みへの直し方——五つの実務ポイント
私たちが自院グループの診療現場で運用を続けてきた経験から、システムが定着するかどうかを分ける要素は次の五つに集約されると考えています
- 業務の動線に埋め込む——既存の手順の途中に組み込み、スタッフの「別作業」を増やさない
- 最初の対象業務を絞る——文書作成や集計など、成果が目に見えやすい業務から始める
- 担当者を一人決める——「全員で使う」は「誰も使わない」になりやすいため、旗振り役を明確にする
- 使用状況を月次で見る——利用回数や作成件数など、使われているかどうかを数字で確認する
- やめる業務を決める——新しい仕組みを入れたら、置き換えた旧手順は明確に廃止する
この中で特に重要なのは、使用状況を数字で把握しておくことです
活用実績が評価の軸になる以上、院内でも同じ物差しを先に持っておくと、施設基準の確認や届出の場面で慌てずに済み、投資を続けるか見直すかの判断材料にもなります
使用状況の把握そのものを仕組み化する方法は予約データ集計の自動化の考え方が応用できます
もうひとつ付け加えるなら、定着には期間の目安を決めることが有効です
私たちの現場では、最初の対象業務を決めてからおおむね三か月を「使われる状態を作る期間」と位置づけ、その間は対象を広げず、使用状況の数字と現場の声だけを見るという運用にしています
最初から全部わかっている人はいません、ひとつ目の業務が回り始めると現場から「これもできるのでは」という声が上がり、ふたつ目、みっつ目と対象は自然に広がっていきます
期間を区切ることで、うまくいかない場合も原因の特定と軌道修正がしやすくなります
「医療のシステム開発は高額」という常識は終わりつつある
使われる仕組みづくりを考えるうえで、あわせて知っておいてほしい変化があります
医療業界のシステム開発が高額であることは、長いあいだ「そういうもの」として受け入れられてきた歴史的な常識でした
専用性が高く作り手が限られ、小さな画面の修正ひとつにも外部への依頼と長い待ち時間が必要だったため、費用の大きさに疑問を持つ機会すらなかったというのが実情だと思います
しかし生成AIの登場で、この常識は終わりつつあります
文書のたたき台づくり、データの集計、案内ページの更新のような領域は、これまで外注すれば大きな費用がかかってきた領域でしたが、いまはAIの支援を受けながら院内の手で作り、現場に合わせて直し続けることができます
院内で直せるということは、費用の話にとどまらず「使われる仕組み」の話でもあります、現場の声を聞いたその日に手を入れられるシステムは、修正に数週間かかるシステムよりはるかに定着しやすいからです
ただしAIは時に事実と異なる出力をし、できることを「できない」と答えることもあります
だからこそ特性を理解して作り込み、最後は必ず人が確認するという運用を前提に据えることが条件になりますが、その前提を守れば院内での作り込みは十分に現実的な選択肢です
何から手を付けるかはクリニックのAI導入の最初の一歩で具体的に整理しています
制度の詳細は一次資料で確認を
本稿は評価の方向性と現場側の備えを整理したものであり、個別の点数・施設基準・経過措置の詳細には踏み込んでいません
算定要件は告示や疑義解釈資料で更新されていくため、具体的な要件は厚生労働省の公表資料を一次資料として確認し、判断に迷う点は所属する地方厚生局や担当の審査支払機関に確認することをおすすめします
制度の読み解きと現場の運用設計は別の技能であり、前者は一次資料と公的な窓口、後者は実際に回している現場の知見にあたるのが近道です
その上で、「自院の現場で実際に使われる状態をどう作るか」という設計の部分は、私たちが実際の診療現場で運用している取り組みが参考になるはずです
医療機関向けのAI活用支援の全体像はAI導入支援のご案内にまとめています
よくある質問
- 2026年6月の診療報酬改定で何が一番変わったのですか
- 医療DX・AIに関わる部分では、「体制を整えているか」から「実際に活用しているか」へ評価の軸足が移った点が最も大きな変化だと私たちは捉えており、個別の点数や要件の詳細は厚生労働省の公表資料での確認をおすすめします
- 導入済みのシステムが使われていない場合、何から始めるべきですか
- まず利用回数などの使用状況を数字で把握し、業務の動線のどこで止まっているかを特定することから始めるのが現実的で、原因の多くは機能の不足ではなく運用手順の設計にあります
- 今からAI活用に着手しても改定の流れに間に合いますか
- 文書作成や集計のような業務効率化の領域は小さく始めやすく、使われる状態を作ってから対象業務を広げる進め方であれば、時期を問わず着手する価値があると私たちは考えています


